トラベルバブルとは?”安全な”海外渡航ルールについて解説!
※本記事は2020年に書かれたものです。
はじめに
皆さんは「トラベルバブル」という言葉をご存知でしょうか?
コロナ収束に伴う観光客増加による旅行業界の爆発的急成長、そして崩壊……という話ではありません。トラベルバブルとは、コロナ禍で以前のように自由な渡航が難しくなっている今の状況を鑑みて、ニュージーランドとオーストラリアが提唱している、新しい渡航の在り方です。
この両国は、観光業において持ちつ持たれつの関係にあります。2019年の訪オーストラリア観光客数でニュージーランドは中国に次ぐ2位(143万人・ニュージーランドの人口およそ3割にあたる数)を記録し、またニュージーランドにとっても、オーストラリアは観光産業における最大のお得意様です。
そんな2国による新しい渡航ルール「トラベルバブル」、いったいどんな内容なのでしょうか。今回は、トラベルバブルの基本と今後の日本における展望も含めて解説していきます。
トラベルバブルとは
トラベルバブルにおける「バブル」とは、任意の国によるコミュニティのことを指します。元々は、家族や町といった必要最低限の接触者で構成されたコミュニティ全般を指す言葉で、コミュニティ以外にウイルス感染を広げないための考え方のひとつです。トラベルバブルでは、この考え方を国単位に引き上げています。
ニュージーランドとオーストラリアは、お互いが他の国・地域との交流や渡航を厳しく制限していることを前提に「バブル」というコミュニティを組み、バブル内での移動制限を大幅に解除することで、危機に陥っている観光産業に対しての応急処置を取ろうとしているのです。
トラベルバブルによる渡航制限の一部解除を考えている国は、ニュージーランドとオーストラリアだけではありません。2国と同じようにある程度感染拡大が抑えられている、バルト三国、スロバキア、クロアチア、ギリシャ、チェコ、キプロス、イスラエルも、同じように「バブル」を組み、中にはすでに渡航制限を解除している国もあります。
むしろ、オセアニア諸国よりもEU諸国の方が積極的に動いており、バルト三国のリトアニア・ラトビア・エストニアは「バルト海トラベルバブル」と称するルールをすでに適用し、お互いの国民がある程度自由に旅行できるようにしています。また、チェコ共和国は6月8日をめどに、一部の国との間で渡航制限を解除する方針です。
実現への課題
バルト三国やチェコのようにすでに「トラベルバブル」ルール下での渡航制限解除を行っている国もありますが、実際には多くの課題が転がっています。
先に説明した通り、ニュージーランドとオーストラリアは、両国がCOVID-19に対する空港での検疫ルールを変更したり、万が一の際の追跡システムや検温体制を整えたりする必要があるとしており、実現にはまだ時間がかかるという見解を示しています。また、観光がGDPの約18%を占めているギリシャでも、経済のためのルール適用を見据えつつ、リゾート地での感染症発生に対する追跡システムなどの導入が必要だとしています。
また、安全面以外にも課題が存在しています。EU間では、「差別的な制限解除をするべきではない」として、全加盟国との渡航制限解除を各国に求めています。特にEU内でも甚大な被害を受けているイタリアでは、「パンデミックが制御できる段階まで行ったら、全加盟国が同じルールに従うべきだ」という意見も出ているようです。
このように、「トラベルバブル」の課題は現状、大きくふたつに分けられます。
- 旅行先で感染者が発生した場合の感染拡大防止策
- 国交の平等性と経済の救済との折衝
これらをどのようにクリアしていくかが、「トラベルバブル」成功のカギといえそうです。
日本が始めに「トラベルバブル」下での関係を結ぶのは?
様々な課題を持ちながらも、観光業や経済への救済措置として準備が進められている「トラベルバブル」。では、日本が導入する場合どの国が有力な「バブル」相手となるのでしょうか?
まず始めに可能性の高い国として挙げられるのは、世界的にも「コロナ対策の優等生」と称される国・台湾です。2019年度の訪日外国数第3位であり、国家間の関係性もおおむね良好なため、日本が封じ込めに成功した段階で渡航制限を解除するとしたら、真っ先に候補に挙がるものと思われます。
台湾側は、10月1日から外国人観光客の規制解除を行うとしています。それまでに日本側の準備が整えば、両国間での行き来も活発になることが見込めます。
訪日外客数1位と2位の中国・韓国については、以下のような動きがあります。
中国
中国側は、今後新たに取得する査証での外国人入国は可能としており、日本政府へビジネス目的の入国制限緩和を打診。しかし、日本側は緩和を時期尚早と見なしている。
韓国
免除措置と査証の効力を停止。日本側は引き続き、韓国含む世界各国に対し、過去14日以内に滞在していた外国人を入国拒否。
現在、中国-韓国間におけるビジネス目的での往来に関しては、例外的な入国制度がスタートしています。出入国時には検査が必要となっているものの、14日間の隔離措置が取られる一般の入国者と比べればハードルが下がっています。現在、日本はビジネス目的の出入国も制限していますが、段階的に解除する時期が来た際は、このスタイルを参考にした安全策が設置されるかもしれません。
とはいえ、中国及び韓国では、「コロナ第2波」も懸念されています。すでにいくつかの地域でクラスター感染が発生しているため、対台湾のようには行かないかもしれません。
日本でも緊急事態宣言解除後の第2波が懸念されているので、お互いに気をつけていく必要がありそうです。
おわりに
コロナ禍で広がる「Withコロナ」の考え方に基づいた新ルール「トラベルバブル」について、解説してきました。
日本で似たような措置が取られるまでには少し時間がかかりそうですが、今のうちに観光業復活の早そうな台湾などを対象に、回復期にきちんと盛り返せるよう準備を進めておくとともに、「感染しない、させない」という個人の行動が、観光産業全体の命運を握っているという自覚を持って過ごしていきたいですね。
参考文献一覧
公益財団法人 日本交通公社“withコロナ時代の観光 ~トラベルバブルについて[Vol.422]” 閲覧日:2020年5月28日
NBC News“CORONAVIRUS
Coronavirus: Countries try ‘travel bubbles’ to save post-lockdown tourist season” 閲覧日:2020年5月28日
Stadista “What Could a Travel Bubble Look Like?” 閲覧日:2020年5月28日
トラベルボイス “韓国・中国・台湾・香港 ⇔ 日本の出入国の規制状況を整理した(5月26日版)” 閲覧日:2020年5月28日
外務省 “新型コロナウイルス感染症の拡大防止に係る上陸拒否等について” 閲覧日:2021年5月21日