推しアクキー決済 -なぜアクリルキーホルダーを愛するのか-
はじめに
皆さんは、「アクキー」をご存知ですか?
アクキーとは、アクリルキーホルダーの略称です。アクリル板を任意の形にくりぬき、イラストや写真などを表面にプリントしてキーホルダー化したもの。かつては古い旅館やホテルの客室キーについていたり、お土産屋さんに並んでいたり、実家にあったものでは写真館で撮影した記念写真を収めたものなんかが主流の使われ方でした。
そんな中でも、今日で特にアクキーが活用されているのはどんな市場でしょうか?
そう、アニメ・ゲーム・漫画市場です。アイドルコンテンツでも、若手グループのグッズでは割と見かける気がします。
今どき、グッズにアクキーがないコンテンツなどない!……と言い切っても過言ではないほど、アクキーはグッズとしての地位を確立しています。
そんなアクキーに注目した面白い取組みを、先日発見しました。
FeliCaモジュール内蔵の「推し払いキーホルダー」を試験販売(ソニー)
ご存じの方も多いでしょうが、Felicaはソニーが開発した非接触型ICカードの技術方式のこと。採用例としてもっとも有名なのは、JR東日本の「Suica」と楽天の「Edy」です。
そのFelicaが、新しいアイデアとして試験的に開始したのが「推し払いキーホルダー」。アクキーの内部に、楽天Edyが使えるFelicaモジュールをつけることで、「推しで支払い」を可能にしています。
価格は2,980円(税込)。ちなみに、手のひらに収まるくらいのサイズで全身が描かれているアクキーの相場は、大体1,000円くらい。技術的な面を考慮すれば恐らく妥当な金額なのだと思いますが、グッズとして購入するには少々割高です。
しかし一方で、アイデア自体は面白く、シチュエーションさえ整えばファンに受けそうな可能性も秘めている、と考えています。
そこで今回は、「そもそもなんでアクリルキーホルダー?」という大前提に立ち返りつつ、このサービスの活用方法を筆者の個人的見解で考えていこうと思います!
アクキー・アクスタはグッズの王道!
先にも述べた通り、カバンなどにつけられる「アクキー」は、キャラクターグッズの王道です。また、近年では持ち歩ける「アクキー」の亜種として、スタンド型で飾ることができる「アクスタ(アクリルスタンドの略)」も存在感を増しています。
私も大小さまざまなアクキー・アクスタを保有していますが、一体なぜこれほど多種多様に出ているのでしょうか?
イラストを持ち歩けるサイズのグッズにした時、一番見栄えが良い
まず挙げられるのは、「美麗さ」です。印刷技術が日々進化し続けたことで、アクキーのクオリティも向上。今や紙に印刷するのと遜色ないクオリティで、イラストをアクリル板に印刷することが可能になっています。かつ、紙とは異なり形状が崩れることはめったにありません。
また、一枚一枚が薄いため、キーホルダーとしてつけた時に邪魔になりづらく、重みも金属製のものに比べるとそこまで気になりません。好きなキャラクターや作品でバッグをデコレーションする「痛バッグ」を作るときも、缶バッジ等と並べて凸凹しないので、よく活用されています。
コスパが良く加工も容易
次に、コスパの良さが挙げられます。丈夫で安定したクオリティのものを作れるにも関わらず、大口で注文すれば1個当たりの価格は大きい物でも150~200円ほど。これはいわゆる「同人グッズ」を受注している業者の価格表を参考にしているので、グッズ作成を専門にしている法人が注文する場合は、もっと安価に作れる可能性も考えられます。
また、アクリル板自体が加工しやすく、ある程度細かいカットも可能です。ただ丸や四角に切り取るのではなく、キャラクターを縁取るようにくり抜くことができるのも、グッズとしてのクオリティを上げています。
アクスタはフィギュアより手軽に推しを飾れる
さらに、近年では机などに立てて飾れる「アクスタ(アクリルスタンドの略)」も大幅に増加しています。アクキーよりもやや値が張りますが、アクリル板の良さを生かしつつ飾ることに特化しているため、出かけた先で組み立てて「推しの映え写真」を撮ることも可能です。
私の持っているものでは、キャラクターの後ろに紙製の背景を差し込んでより装飾品としての見栄えを高くしたり、土台となるアクリル板に床や地面のイラストを印刷して、ワンシーンの切り抜き風に仕立てたりしているものがあります。フィギュアより幅の狭い場所にも飾れるため、PCの周辺にずらっと並べているのはここだけの話です。
アクキー(アクスタ)が、グッズとしての高いポテンシャルを持っていることは、もうお分かりいただけたでしょうか?
では続いて、実際にアクキーを決済手段として活用するのはどうなの? というところについて、私なりに考えていきたいと思います!
アクキーで決済、あったらするか?
アクキーを所持するオタクの端くれとして、個人的な結論だけ言わせてもらうと「近所のコンビニでは使わないかな」です。
しかし一方で、「お祭り(イベント)なら使うかも?」とも思います。
TPOの圧力はまだ大きく感じる
アクキーは、グッズとしては非常に完成度が高く見ていて楽しいのですが、筆者はどちらかというと「普段使いするカバンに着けるのはちょっと恥ずかしい」派です。じゃあアニメコラボのクレジットカードはどうなんだ、と思われるかもしれませんが、クレカはあくまでクレカであり、アニメ柄は副次的なものに過ぎません。ですが、アクキーはグッズに新しい付加価値としての決済機能がついたものなので、より「アニメグッズ感」が強いわけです。なので、ご近所で普通に買い物するとき「じゃあちょっと推しで」とは(私は個人的には)なかなかいきません。
この傾向は私だけに限った話ではなく、女性向けカルチャーポータルサイト「にじめん」が2019年に取ったアンケートでも、過半数の人が「キャラクターの描かれたグッズを日常的に身に着けない」と回答しています。
「推しをみんなに見てほしい!」という思いはあれど、色々なことを考慮して普段使いを避ける傾向はまだ根強くあります。
また、そういった「TPOの配慮」をより強く求められるのは、往々にして学生よりも社会人ではないでしょうか。金銭的余裕のある層ほどアクキーなどのグッズを表立って着けられない、というジレンマを解消できるかどうかが、「推し払い」実現のボトルネックだといえます。
アクキーが傷まないか心配
筆者が次にネックだと感じるのは、「劣化の懸念」です。
仮に「アクキーを普段使いする」という壁を乗り越えられたとして、周囲の目など気にせずグッズを身に着ける方の愛が小さいはずもありません。次に心配するとしたら「何度も出したり入れたりしたら、印刷面が劣化したり、傷がついたりしないだろうか」という点ではないでしょうか。
今回作成されたアクキーがどのようなものか、画像だけでは判別できませんが、ものによっては印刷面がぺりっと取れることがあります。また、そうでない場合も、タッチする際に決済端末や自信の手指に何度もアクキーが触れれば、汚れや傷がつく可能性は十分にあります。
グッズとしてみた場合、やはり傷ませたくはないものです。
デザイン性が高ければアリかも
ここからは、筆者なりに考えたボトルネックの解消法をご紹介していきます。
まず「決済するときちょっと照れる問題」です。こちらは、デザインによってかなり軽減できるのではないかと思います。
これは筆者の体感ですが、「オタク」に対するネガティブイメージが軽減するのと比例して、おしゃれなグッズがどんどん世の中に増えてきたように思います。筆者が10年近くハマっているコンテンツでも、初期と比較すると「分かる人にしかわからないアイテム」が圧倒的に増えました。有名デザイナーやファッションブランドとコラボしたり、キャラクターの姿ではなくモチーフとなる花やロゴを主体としたデザインにしたり、言い換えれば「人目を気にする人が持ってもそんなに恥ずかしくないグッズ」が多くなったのです。
そこのニーズに応えるのであれば、例えば2021年3月にスターバックスコーヒーがビームスとのコラボで販売したキーホルダーのアニメグッズ版のようなものなら、「隙あらば推しを主張したい」というファン心理に刺さるかもしれません。
「アクキーで支払い」自体をエンタメに
とはいえ、グッズとしてのアクキーの良さを殺してしまうのも、少々もったいないような気がします。先のアンケート結果では少ない方だったとはいえ、「アニメグッズをオープンに持ちたい!」層も一定数います。
ならば、「みんながつけていてそれを楽しめる空間」であればどうでしょうか?
例えば、ライブ物販やイベント物販。行ったことのある方は分かると思いますが、ああいった場ではとにかくお会計に時間がかかります。商品選びは事前に渡されたりDLできたりする注文リストに記入すれば済む話ですが、決済だけはどれだけ素早くこなしても時間ロスが生まれます。
そこへ、Felicaを導入すればどうでしょうか。例えば、Felica機能付きアクキーをグッズとして売って、参加者・購入者には事前にある程度チャージをしておいてもらう。後は欲しい商品を買うときに、さっとタッチするだけです。PINの入力もいらないので、クレジットカードより早く支払いを済ませられます。
参加者は、時間ロスができて且つ限定品のアクキーを手に入れることができますし、運営側は回転率を上げて顧客満足度の向上に繋げることができます。お金を入れなければ普通にアクキーとして飾れるわけですから、ライブ会場でも空気の邪魔をしません。
アクキー独自の見栄えの良さやグッズとしての価値の高さを生かすことができれば、もっとユニークな活用もできるのではないでしょうか。
おわりに
「推し払い」、皆さんの目にはどう映ったでしょうか?
だいぶ長くなってしまいましたが、アイデア次第で面白くなりそうなサービス。まだ試験段階だそうですが、今後はどこかで見かけることになるかもしれません。私も、自分のハマっているコンテンツで活用される日が来たら、ぜひ試してみたいと思います!